健康増進に積極的に寄与する食物の働きについて注目をあびるようになったのは、ここ10年くらいのことです。それまでは、食物と健康との関係は、栄養という概念でとらえられていました。しかし、文部省の特定研究「食品機能の系統的解析と展開(1984-1986年)」の中から生まれた考え方です。
この特定研究で注目されることは食べ物の一次機能(栄養素:身体に対する栄養素の働き)、二次機能(美味しさ:感覚器官に対する香味成分の働き)からすすんで、三次機能(生体調節機能)が提唱され、その機能として、疾病の予防からその回復までも期待することが可能となりました。
食事や食習慣はライフスタイルの中で、健康に大きくかかわっています。例えば、最近の疫学調査によると、がんの予防が事前に可能であるといわれています。また、高血圧や脳卒中になりやすい遺伝素因がある人の場合でも毎日の食事の摂り方に気をつけていれば、脳血管疾患を予防できるなど、食べ物・食生活はがんや老化をはじめとする生活習慣病の予防に大きな役割を果たしています。
生体のいろいろな系統を特異的に調節する食品成分の発見から調節メカニズムの分子レベルでの解明などの成果があがりました。それによって疾病の発症を未然に防ぐよう設計された新しい食品「機能性食品」の研究開発も始まって、アレルギー低減化、カルシウム吸収促進、腸内細菌の調節(ビフィズス菌増強)、免疫増強、神経調節、血圧降下、コレステロール低減化などの開発が盛んに行われています。
■食品由来の三次機能性成分
| 食品 |
物質 |
可能な機能または効果 |
| ■免疫系 |
| ミルク |
カゼインペプチド |
マクロファージ活性化 |
| 小麦 |
リポ多糖類 |
免疫増強 |
| イセエビ |
チキン |
免疫増強 |
| カンゾウ |
グリチルレチン酸 |
免疫抑制 |
| ■内分泌系 |
| トウガラシ |
カプサイシン |
抗肥満効果 |
| 大豆 |
トリプシンインヒビター |
コレシストキニン分泌 |
| ■神経系 |
| ミルク |
カゼインペプチド |
オピオイド機能 |
| ミルク |
カゼインペプチド |
オピオイド拮抗作用 |
| 小麦 |
グルテンペプチド |
オピオイド機能 |
| ■循環系 |
| ミルク |
カゼインペプチド |
血圧降下 |
| コーン |
ゼイン |
血圧降下 |
| 大豆 |
グリシニンペプチド |
血圧降下 |
| 魚 |
ミオフィブリルペプチド |
血圧降下 |
| 大豆 |
グリシニン |
コレステロール低下 |
| イセエビ |
キトサン |
コレステロール低下 |
| 油糧種子 |
γ-リノール酸 |
コレステロール低下 |
| マッシュルーム |
ファネルシルオシノール |
コレステロール低下 |
| 魚 |
エイコサペンタエン酸 |
凝固調節 |
| ■消化系 |
| ミルク |
カゼインホスホペプチド |
カルシウム吸収促進 |
| 血清アルブミン |
アルブテンシンA |
ぜん動効果 |
| 食品たんぱく質 |
オリゴペプチド混合物 |
有効アミノ酸摂取 |
| 小麦 |
高グルタミンペプチド |
腸管活性化 |
| 食品 |
オリゴ糖 |
微生物菌叢調整 |
| ■細胞系 |
| ミルク |
ラクトフェリン |
抗菌効果 |
| ミルク |
ガングリオシド |
抗細菌毒素作用 |
| 卵 |
チキンシスタチン |
抗ウイルス性作用 |
| 米 |
オリザシスタチン |
抗ウイルス性作用 |
| ゴマ |
セサミノール |
抗酸化作用 |
| しょうが |
ジンゲロール |
抗酸化作用 |
| そば |
ルチン |
抗酸化作用 |
| にんじん |
カロチノイド |
抗酸化作用 |
| 大豆 |
サポニン |
抗酸化作用 |
| ワカメ |
フコステロール |
抗酸化作用 |
食品の機能性についての多くの報告のうちから、大豆、茶、魚介類について紹介します。「野菜」については、「野菜のウエブサイト」を参照して下さい。
1) 大豆
ア.大豆のがん発症抑制効果
疫学調査から、味噌汁を多く飲む地域で、がんが少ないことが判明しているが、その理由の一つは、味噌汁の具の野菜から摂取する食物繊維であるが、大豆自身にもがんの発症抑制効果があることが判明している。その機構は未だ解明されていないが、一つは、大豆に含まれるイソフラボンであるとされている。イソフラボンは、女性ホルモン(エストロジェン)類似の作用があることから、乳がんや前立腺がんの発症抑制効果があることが推定されている。
イ.イソフラボンの循環器疾患低減効果
大豆のイソフラボンが、循環器系の改善にも役立つことが報告されている。イソフラボンを摂取することによって、血圧低下と、コレステロールレベル低下が観察された。
ウ.大豆サポニンの活性酸素消去作用
生体中には、活性酸素を消去する機構が備わっている。また、食品にも、活性酸素を消去することができる物質が存在している。その代表が、分子中に複数の水酸基をもつポリフェノール類である。特に大豆に含まれるポリフェノール類として、大豆サポニンが最も活性が高いことが実験で明らかになっている。
2) 茶
ア.茶ポリフェノールの血圧低下作用
茶に含まれるポリフェノールには、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、テアフラビンなどがある。これらの、大腸菌O-157をはじめとした殺菌作用が近年話題になったが、同時に、血圧低下作用もある。その機構は、アンギオテンシン変換酵素の活性阻害である。
イ.茶ポリフェノールの発がん抑制作用
マウスに茶ポリフェノールを与えて、乳がんの発生率の低下を認めた報告がある。茶ポリフェノールは生体内でもがん抑制効果が観察されている。
3) 魚介類
1)魚介藻類中の機能性成分
ア.タウリン
タウリンは、タンパク質に含まれているアミノ酸と化学構造が良く似たもので、イカやタコなどに多く含まれています。タウリンは肝臓で行われているコレステロールの分解を促進することによって、血液中のコレステロールを下げたり、心臓病や脳卒中の予防に役立つとされています。
イ.ミネラル類
日本人に不足していると言われているカルシウムは、小魚のつくだ煮、煮干し、たたみいわしなどに豊富に含まれています。これらの魚介類の加工品は骨の病気の予防に適して
います。鉄はホッキ貝やバイ貝などの貝類に多く、女性に多い鉄欠乏性貧血の予防に役立つ。亜鉛は特にカキに多く含まれており、味覚の維持や発育に必要なだけではなく、生殖機能を保つ上でも必要とされています。リチウムやヨウ素は海藻類に豊富に含まれています。リチウムは気力維持やうつ病の治療にヨウ素は甲状腺機能の維持や甲状腺腫の予防に効果的とされています。
ウ.EPA(エイコサペンタエン酸)の機能性
EPAはDHAと同様にまいわしやまぐろ(脂身)、さば、ぶり、さんま、うなぎなどの魚類に豊富に含まれています。中でもまいわしはDHAよりもEPAの含有量が多くなっています。水中でも生活するオットセイ、アザラシ、トドなどの海獣類やウミヘビなどの脂肪にも豊富に含まれています。しかし、DHAと異なり、EPAは動物やヒトの脳や網膜にはほとんど含まれていません。
EPAは血栓を予防する効果があり、血栓はいろいろなことが原因で血管の内側に傷ができ、そこに血小板が異常に付着してできます。血小板を血管の傷に付着しやすいトロンボキサンA2と付着しにくくするプロスタグランジンI2やI3とのバランスで血栓かできやすくなったり、できにくくなったりします。EPAを多くとるとアラキドン酸が減って、トロンボキサンA2とプロスタグランジンI2が減り、プロスタグランジンI3が増えるため、結果として血小板が付着しにくくなります。そとて血栓ができにくくなるわけです。
エ.DHAの機能性
DHAは数年前から“頭の働きを良くする”ということで注目されている高度不飽和脂肪酸です。DHAはEPAと同様魚介類及び海獣類やウミヘビなどの脂肪に豊富で、特に回遊性の魚や大型の魚に多く含まれています。しかし、植物や動物の筋肉には、ほとんど含まれていません。ところが陸上の動物でも脳、網膜、精巣などにはDHAが豊富認められていません。DHAはEPAと同じように、非常に良く吸収され、血液中に入り多くの臓器に取り込まれています。DHA及びEPAを実験動物に食べさせて、その血液や脳の中のDHAを調べた結果これらの脂肪酸すべては血液や脳のDHAを増やすことが可能であるが、血液や脳のDHAを増やすためには、DHAそのものを食べるのが一番効率が良いということが明らかにされています。しかし、血液中にα-リノレン酸やEPAが多くあっても、脳の中ではα-リノレン酸やEPAはほとんど認められていない。このことは脳ではDHがA必要なため選択的に取り込まれていることを示しています。
ヒトの脳の発達とDHAの関係については、未熟児での研究が最初に行われていますが、正常出産児の脳の発達にもDHAが重要な役割を演じており、妊婦や授乳婦はDHAを適量とることをすすめています。
また、魚介類を毎日食べている人の方がアルツハイマー型の痴呆症になりにくいことが疫学研究で明らかにされています。魚介類に多いDHAが関係していることが考えられ、老人性痴呆症の予防や治療効果が期待されています。
さらに、DHAは目の網膜にも関与して、網膜機能の維持に必要であると考えられています。大腸ガンや乳ガンの発生を防ぎ、増殖を抑え、転移を防ぐ効果があると動物実験で明らかにされています。抗炎症作用があるためアレルギーの炎症疾患(アトピー性皮膚炎、花粉症など)の予防や治療に有効であるというデータが報告されてまいす。この理由もEPA同様でアラキドン酸から作られる炎症促進物質であるロイコトリエンを少なくすることにあると考えられます。